ベッドに寝ころがっている時、最も目につくのはシーリングライト。今までの生で、でんき、でんき、と呼んできた私にとっては、シーリングって何だよ?と思わせる。
だが世界は、
無味乾燥したシーリングの意味を私に教え込む。無味乾燥した意味だけで使わなければ
説き伏せられる。
即ち、
シーリングとは天井を指し示す語句だ。
詩情の無いところで其れは、部屋に張られた天井でなければ許されない。
そして、今、私は
生きられない其処にいることを拒否する。
シーリングライトを見上げている。
このシーリングという語句にはingが含まれている。 中学校の授業で確か…言っていた。ingとは現在進行形だと。
だとするならば、シーリングとはシールが現在行われていることを示す。
シール……そうだ……アザラシやアザラシの皮をシールという……。イギリスの妖精について著した本に書いてあった…スコットランドの高地地方では超自然の花嫁は、海の妖精で、アザラシの乙女。それが人間の漁師と結婚していることがある。彼女には海に夫がいて愛しているが、仕方無く陸に上がっている。シール……アザラシの皮。脱いであった皮を漁師に奪われた精は、その漁師の花嫁になるのだという。
皮を奪われ、アザラシとして海に在ることが難しくなったのだろうか…。
では、シーリングとは、皮を奪われたアザラシの精がそれ特有の行動を現在行っていることを示すのだ。
そして、
この狭く冷たい部屋は
厚く氷の張ったスコットランドの海になる。
空気は海水。潮の匂い。私を揺する。
この海の天井は厚い氷だ。
私は皮を奪われたアザラシの精として部屋の底に在る。
見上げれば、弱い太陽が氷を透かしてぼんやりと浮かんでいる。
私は海を登り、氷の天井に向かう…息を吸うために。
皮を取り返したい……でも、どうやって……。
私は部屋のベッドに寝ころがりながら
氷の裂けた部分を探し、息を吸うため、
シーリングライトを見上げている。
私の皮はどこにある……。
無味乾燥の意味に留まるなら、
シーリングライトの放つ潮の香が
その体に届くことは
決してない。
もちろん、シーリングライトを天井の灯りとしてしか見たくないのだと言う者もいるだろう。別にかまわない。そんなの知らない。
私は夢想にある潮の香を潮騒を感じたい。
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